(49)ビアトリス・ホーネガー著『茶の世界史』

◎歴史を動かしたひすい色の液体 評価★★★☆☆

 茶が世界史に与えた影響ははかりしれません。それが西洋人の求めるものとなった時、最も迷惑をこうむったのは、茶を輸出する側の中国でした。西洋人は銀で茶を買いました。しかし、中国は物資の豊かな国ですから、西洋から買うものは別にありません。西洋の銀はどんどんなくなっていきます。そして青い目の欲望に満ちた人たちは、インドを産地にしてアヘンを中国に売ります。国を挙げての麻薬商売。もちろん西洋でもそんな汚い商売に倫理的に反対する人もいましたが、小さな声でした。中国も林則徐という賄賂になびかない高潔な人をアヘン取締に派遣しますが、結局は西洋が戦争をしかけます。アヘン戦争。中国はむりやりに開港をさせられ、中国人の1割はアヘン中毒となっていました。
 こうした悪名高い貿易については、角山栄さんの『茶の世界史』(中公新書)に書かれています。本書の特徴といえば、茶がどのように西洋に広まっていったのかを、とても詳しく書いていることでしょう。原題の「ひすい色の液体」はまたたく間に西洋に広がり、西洋のなかでも歴史を動かすものとなりました。
 茶が伝わる前は子供でもビールを朝から飲んでいたそうです。安全で体にいい茶はそれにとってかわります。ロンドンで政談が繰り返されたコーヒーハウスでも茶が優勢になっていきます。国が目を付けないわけはなく高い税金が課せられ、密輸が横行するとともに、植民地アメリカでは、ボストンティー事件のように、茶の課税に抗議する運動が起き、やがては独立戦争へと発展していきます。
 本書には蘊蓄も豊かです。茶とチャイはどう違うのか、ティーバッグはどのように発明されたのか、そして現在まで時間はくだり、茶農園で搾取されてきた第三世界の人々の話まで触れられています。
 西洋人の本ですから、アジアでの茶文化の発展までは詳しくカバーされていませんが、著者は千利休の茶道にとても関心を寄せています。茶は人間の精神に働き掛け、それゆえに歴史を動かすインパクトを与えたということでしょう。茶をめぐる長い歴史が網羅的に書かれていますが、それぞれのエピソードは面白く、モノと歴史を考えるには興味深い一冊と言えます。<狸>


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