2010-01-01から1ヶ月間の記事一覧

(46)内田樹著『日本辺境論』

◎とことん辺境で行こうと呼びかけ 評価★★★☆☆ 内田樹さんの書いたものは、首肯できるものが多く、ブログや中央公論のコラムは愛読しているので、話題になっている本書はかなり期待をもって読み始めました。期待が大きかったせいでしょうか、8割ぐらいは大い…

(45)三浦展編著『奇跡の団地 阿佐ヶ谷住宅』

15歳から大学卒業まで団地住まいをしていました。湾岸地区にある巨大団地で、室内は快適でしたが、外はコンクリートに囲まれている無機質な感じでした。実はそれはそれで好きな環境でした。どこか醒めた、クールなただずまいの団地でした。でも本当は緑が…

(44)佐藤哲彦・清野栄一・吉永嘉明著『麻薬とは何か』

◎ドラッグが映す時代の推移 評価★★★★☆ もう時効なので告白しますがが、20年くらい前に悪友にすすめられて一回だけ大麻を吸ったことがあります。車の中でパイプで何回か吸い込んだのですが、そのときに起きた変化というと、カーステレオから流れてくる音楽…

(43)童門冬二『新釈 楽訓』

◎楽しむことこそよかりけり 評価★★★★☆ 時代小説家の著者が、80歳をすぎた自分にひきつけながら、貝原益軒の「楽訓」を心にまかせて解説をした本です。私は自己啓発本を憎むものですが、古典から人生訓を教わるのは好んでいます。「養生訓」で知られる益軒…

(42)竹内好著『魯迅』

◎魯迅にとって文学とは何か 竹内好の再評価がこの数年続いている。数冊の関連書をみたが、私には研究者たちの関心の輪郭がみえなかった。ただひとつ得心できたのは鶴見俊輔氏の「黙っていられる人だった」とという月旦のみである。黙っていられない評論家ば…

(41)柴田一成著『太陽の科学』

◎実はおそろしい太陽 評価★★★★☆ 天文学において日本の太陽研究は世界でもトップと言ってよいそうです。さすが日出ずる国ですね。本書は日本がそれほど笹井先端の研究をしているのに、知見を一般に知らせてこなかったという反省から、なるべく分かりやすく太…

(40)平野暁臣著『空間メディア入門』

◎よいイベントの作り方指南 評価★★★☆☆ 書肆ソラリス出品中 アートが好きでも、美術館は足を運ぶことが億劫だと思う人は結構多いのではないかと思います。私は「順路」に従って、まるでどの作品も同じ時間だけ見て、帰れというような一般的な美術館の形態がど…

(39)伊藤比呂美著『読み解き「般若心経」』

◎詩人がお経と出合ったとき 評価★★★★☆ 伊藤比呂美さんという詩人は背負ってしまう人なのでしょう。どうしようもなく背負ってしまう。詩人は本質にじかにふれる人びとだと、誰かが書いたことを思い出しまいた。人間にとって避けられない生老病死。伊藤さんは…

(38)白取春彦編訳『超訳 ニーチェの言葉』

◎これこそが自己啓発では!? ★★★☆☆ 書肆ソラリス出品中 若いときには色々な思想家にかぶれるものです。年代が上であれば、まずはマルクスかぶれが筆頭でしょう。その後にサルトルかぶれがあり、ニーチェかぶれは3番手くらいでしょうか。年代がくだると、フ…

(37)神保哲生、宮台真司ほか著『格差社会という不幸』

◎ヒドイ社会をどうするか ★★★★☆ 冒頭で宮台真司さんが的確にまとめていますが、現在の日本は客観的にみて「ヒドイ社会」です。自殺率は英国の3倍 、米国の2倍、労働時間は非常に長く家族や社会活動にあてる時間もない。「経済を回って社会回らず」と宮台さ…

(36)知的生産の技術研究会編『知の現場』

◎迷っている方にはよいかも 評価★☆☆☆☆ 「知の現場」という題名にひかれて手に取りましたが、ちょっとがっかりの内容でした。エコノミストやベンチャー起業家などの仕事のやり方についてのインタビューを集めたものですが、読み終わってみて、仕事というのは…

(35)原田曜平著『近頃の若者はなぜダメなのか』

◎さぞかし息苦しいだろうと思う 評価★★★☆☆ 読んでいる途中で、こちらまで息苦しくなってきました。なんという窮屈で狭い世界のなかで若者たちが生きていることか。著者は「新村社会」と名づけていますが、いまどきの若者たちつねに「空気」を読みながらびく…

(34)河本敏浩著『名ばかり大学生』

◎日本の教育が招く怖ろしい未来 評価★★★★☆ 私じしんも授業はさぼり、読書したりバイトをしたりの「名ばかり大学生」だったので、本書のタイトルを見たときは、日本の大学では当然のことだろうと思いました。昔から日本の大学は入るのは難しく出るのは簡単、…

(33)田中和彦著『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』

◎そんなに守れないって ★★☆☆☆ 本当は今日、書評を掲載しようと思っていた本があったのですが、かなり難解な本だったので、構想がまとまらず、お気軽な本を紹介します。 ビジネス本・自己啓発では数字などをつけて「○○のルール」というのが一つのフォーマット…

(32)小島毅著『父が子に語る近現代史』

◎バランス感覚にあふれた歴史入門 評価★★★★☆ 父親が自分の高校生の娘に語るというスタイルで好評を博した『父が子に語る日本史』の続編です。前作が近世まででしたが、本書は明治維新前後から第二次大戦までを範囲にしています。高校生へのレクチャーですか…

(31)鳥居みゆき著『夜にはずっと深い夜を』

◎意外にも文学的クオリティ高し 評価★★★☆☆ 妄想系というか、引きこもり系というか、ぶっ飛んだパフォーマンスで知られる鳥居みゆきさんの初めての小説集「です。活字でも〝カルト女芸人〟の名にふさわしい、奇妙な味わいの世界を作り出しています。 いくつか…

(30)坂上遼著『消えた警官』 

◎権力はおそろしい 評価★★★☆☆ 1952年、いまから60年近く前に起きた警察による謀略事件「菅生事件」を追ったドキュメントです。それだけの時間がたっているのに、関係者に丹念に取材し、生々しく事件の真相に迫った意欲作です。 大分県の寒村の菅生村で…

(29)鶴見俊輔・重松清著『ぼくはこう生きている 君はどうか』 

◎賢人の公平な目 評価★★★★☆ 鶴見俊輔さんの言葉はとても平易なのですが、じつはとても多様な意味をふくんでいて、自分の頭で考えているうちに、ぱっと目の前が開かれるように感じるようです。この本は小さい本ですが、そんな鶴見さんのことばがたくさん詰ま…

(28)香山リカ『しかみつかない生き方』 

◎混迷する生き方論 評価★★★☆☆ 前回は、勝間和代さんと香山リカさんの論争的対談の本をとりあげたので、対談が実現するきっかけとなった香山さんの本について紹介します。 香山さんの観察では、2000年代に入ったころから、日本人の心のかたちが変わったと…

(27)勝間和代・香山リカ著『勝間さん、努力で幸せになれますか』

◎ やはり香山さんに軍配をあげたい 評価★★★★☆ 「勝ち組」の代表として「効率をよくして、努力をして競争に勝ち、成功を収める」というノウハウ本でベストセラーを連発する経済評論家の勝間和代さんに対して、精神科医の香山リカさんが「しがみつかない生き方…

(26)浅尾大輔著『ブルーシート』

◎若者たちの「人間宣言」評価★★★★☆ フリーターやニート、貧困や格差の問題を語るとき、われわれはとかく抽象的にとらえがちになってしまいます。彼らは数に還元され、貧困や格差は社会システムに収斂してしまう。しかし、人間はひとひとり顔をもち、個性をも…

(25)柿沼敏江著『アメリカ実験音楽は民族音楽だった』(フィルムアート社)

◎ジョン・ケージの意味が少し分かる 評価★★☆☆☆ 現代音楽・実験音楽というのは、あまりに理屈っぽく、あるいは不協和音ばかりであまり好きではありません。音楽とは人間が楽しむためのものであって、学術論文ではないと思っていました。もちろん「理屈」は好…

(24)日本放送作家協会編『テレビ作家たちの50年』(NHK出版)

◎テレビ本来のパワーとは 評価★★★★☆ いまテレビをめぐって語られるたびに、「かつてのテレビは…」という言葉がでてきてしまうのはないでしょうか。かつての番組は面白かった、かつてのテレビは元気があった、などなど。視聴率でも内容のおもしろさでも、テレ…

(23)谷沢永一『人間通』

◎書評とは何か 評価★★★☆☆ 作家の谷沢永一さんが、人間(とりわけ俗世の人間)とはどういうものであるかをつづったアフォリズム集です。小見出しでつづってみると、人間とはいかに「吝嗇」で「臆病」で、すぐに「羨望」や「嫉妬」をする存在であるかを、谷沢…

(22)康芳夫著『虚人のすすめ』

◎ポストモダンさえ超える生き方 評価★★★★☆ 確かに戦後の日本のなかで、これほど天衣無縫な活動をしてきた人はほとんどいないでしょう。最大の「功績」はムハマド・アリ対アントニオ猪木戦を実現させたことです。試合は猪木が上半身では敵わないと思い、寝転…

(21)ニューズウィーク日本版編集部編『アメリカ人 異人・変人・奇人』

◎ユーモアあふれる人物欄 評価★★★★☆ 新聞や雑誌の「読者の声」を欄を読むのは、結構楽しいものです。常識やルールに縛られている記者やライターよりも、ときとして突飛なことが書いてあります。また、どうでもいいって言っては失礼ですが、近所の人への苦情…

(20)つげ義春著『近所の景色』

◎貧乏とは何か 評価★★★★★ つげ義春コレクションがちくま文庫で配本中です。これは第4回目の配本で、「ねじ式」と並ぶ名作とされる「無能の人」が収録されています。「無能の人」は竹中直人主演で映画化もされましたね。ブログの噂では、つげさんはこのコレ…

(19)森枝卓士著『食の冒険地図』

◎食文化論の入門に 評価★★★★☆ あけましておめでとうございます。お正月といえば、おせち料理。昆布巻きや膾、黒豆など普段は食べない伝統料理を食べるときでもあります。日本人として和食のすばらしさを改めて感じる機会でもありますね。今回は「食の冒険地…